AI記事の法的リスクが見過ごされる問題
先に答えを言うと、AI記事の法的チェックは、法務担当者の目視確認だけでは件数増加に伴い漏れが生じやすく、ファクトチェック自動化+人間承認フローの仕組み化によって公開品質を担保しながらコンプライアンスリスクを回避できます。
AI記事を制作・公開する企業が増える一方で、法的リスクへの対応が追いついていないケースが少なくありません。PwC Japanの「生成AIに関する実態調査 2025春」によると、日本企業で生成AI活用に伴う「コンプライアンス・企業文化・風習などにおける脅威」を44%が認識しており、前回調査から23ポイントも増加しています。
この記事で分かること
- AI記事に潜む主な法的リスク(著作権、ハルシネーション、情報漏えい)
- 法務担当者の目視確認だけでは限界がある理由
- 法的チェックを仕組み化する具体的な方法
- 公開前に使えるチェックリスト
AIガバナンスとは、AI活用に伴うリスクを管理し、適切な運用を確保するための組織体制・ルール・プロセスの総称です。AI記事の運用においても、このAIガバナンスの視点が欠かせません。
2025年に総務部門が力を入れたテーマの調査では、「コンプライアンス」が35.6%で1位となっています(調査対象は限定的)。AI活用が広がるにつれ、法的チェック体制の整備は避けて通れない課題となっています。
AI記事の主な法的リスク
AI記事には主に3つの法的リスクがあります。著作権侵害リスク、ハルシネーションによる誤情報拡散リスク、そして情報漏えい・セキュリティリスクです。Web担当者Forumによる日本企業の生成AI活用調査(2025年公表)では、「情報漏えい・セキュリティリスクへの懸念」が導入課題として32.5%を占めており、リスク意識の高さがうかがえます。
ハルシネーションとは、生成AIが事実と異なる情報を、あたかも正しいかのように出力する現象です。AI記事の法的リスクの一因となります。
また、日本では「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI推進法)が2025年通常国会で成立しました。AI推進法はAI活用事業者の責務や安全性確保を規定しており、法規制環境も変化しています。
著作権リスクについては、現状「グレーだが侵害・保護不能の両リスクを織り込んで運用する」という姿勢が求められます。
著作権侵害リスク
AI生成コンテンツが著作権侵害に該当する可能性は否定できません。「記事体だからAIで作っても著作権侵害にならない」という考えは誤りです。生成された文章が特定著作物に酷似している場合や、翻案と評価される場合には、著作権侵害のリスクがあります。
日本では明確な最高裁判例がまだ少ないため、現時点では著作権侵害に該当するかどうかの判断が難しいケースが多いのが実情です。そのため、AIが生成した文章をそのまま公開するのではなく、人間による確認と修正を経るプロセスが重要になります。
ハルシネーションによる誤情報拡散リスク
ハルシネーションは、AIが事実と異なる情報を出力するリスクであり、法的には名誉毀損や信用毀損につながる可能性があります。「AIが法的に問題ないと判断した出力はそのまま使える」という考えは誤りです。AIの出力は必ず人間が確認する必要があります。
特に、企業名、人名、統計データ、法令の解釈などについては、ハルシネーションが発生しやすい領域です。誤った情報を公開した場合、取引先や関係者からの信頼を損ない、法的責任を問われる可能性もあります。
コンプライアンス体制構築の基本
AI記事運用におけるコンプライアンス体制は、「規程整備」「チェックプロセス」「責任体制」の3つの柱で構築します。JETROの2025年調査では、在欧日系企業がAI規制への注目度が前年26.9%から46.5%へと約1.7倍に上昇しており、グローバルでAIガバナンスへの関心が高まっています。
また、AIガバナンス白書2026年版によると、MIT調査として、トップレベルのガバナンス体制を持つ企業の58%がAI投資から「明確なROI」を実現しているとされています(グローバル調査であり日本単独の数値ではない)。法的リスク回避だけでなく、AI活用の成果向上にもつながる点が注目されます。
体制構築の標準的なアプローチとしては、「生成AI利用規程・コンプライアンス規程・内部通報規程の3セット整備」が推奨されています。
生成AI利用規程の整備
生成AI利用規程とは、企業が生成AIを業務で利用する際のルールを定めた社内規程です。入力禁止情報、出力物の確認プロセス、責任体制などを規定します。
生成AI利用規程に含めるべき主な項目は以下のとおりです。
- 入力禁止情報: 個人情報、機密情報、取引先の非公開情報など
- 出力物の確認プロセス: 誰が、どの段階で、何をチェックするか
- 責任体制: 最終承認者、問題発生時の対応責任者
- 利用可能なAIツールの範囲: 社内で承認されたツールのリスト
外部から「AI利用ポリシーの提示」を求められる場面も増えており、規程整備の優先度が高まっています。
公開前チェックの方法と限界
公開前チェックの基本は、著作権・ファクトチェック・コンプライアンスの3観点で確認することです。しかし、「公開前に法務担当者が目視で確認すれば大丈夫」と考え、法的チェック工程を属人化させることは失敗パターンです。AI記事の件数が増えるとチェック漏れが発生しやすくなり、法的リスクが顕在化します。
JETROの2025年調査では、AI規制への注目項目としてサイバーセキュリティが59.0%で最も注目されており(製造業では66.7%)、セキュリティ観点でのチェックも重要です。
目視確認だけでは漏れが生じる理由
法務担当者の目視確認に頼る運用には、以下のような限界があります。
- 件数増加への対応: AI記事の制作本数が増えると、1件あたりにかけられる時間が減少
- 担当者の属人化: 特定の担当者に依存すると、不在時や退職時に体制が崩壊
- チェック基準のばらつき: 明文化されていない基準は担当者ごとに判断が異なる
- 疲労によるミス: 大量の記事を連続でチェックすると集中力が低下
これらの課題を解決するには、チェックを仕組み化し、属人性を排除する必要があります。
法的チェックを仕組み化する方法
法的チェックを属人化から仕組み化へ転換するには、「チェックリストの標準化」「自動検証ツールの活用」「人間承認フローの設計」の3つを組み合わせることが有効です。
重要なのは、「人間の最終責任」を明確化することです。AI出力には必ず人間のレビュー(法務・レギュレーション観点)を入れ、元ネタURLや出典を必ず確認する運用を徹底します。
【チェックリスト】AI記事公開前の法的チェックリスト
- 記事内の企業名・人名・団体名が正確か確認した
- 記事内の統計データ・数値の出典元を確認した
- 出典元のURLが有効でアクセス可能か確認した
- 引用・参照した情報が最新のものか確認した
- 著作権で保護された文章・画像を無断使用していないか確認した
- 他社の文章と酷似している箇所がないか確認した
- 特定の企業・個人を誹謗中傷する内容がないか確認した
- 事実と異なる情報(ハルシネーション)がないか確認した
- 個人情報が含まれていないか確認した
- 機密情報が含まれていないか確認した
- 競合他社の営業秘密に該当する情報がないか確認した
- 法令・規制に関する記述が最新の状況を反映しているか確認した
- 断定的な法的助言に該当する表現がないか確認した
- 商標権を侵害する可能性のある表現がないか確認した
- 景品表示法に抵触する可能性のある表現がないか確認した
- 最終承認者による承認を得た
- チェック実施日と担当者を記録した
自動検証ツールの活用
ファクトチェックや著作権チェックを自動化するアプローチとして、コピペチェックツール、AIによるファクトチェック支援、出典URLの有効性確認ツールなどがあります。
自動化によって、チェックの漏れを減らし、担当者の負担を軽減できます。ただし、自動化だけで完結するわけではありません。ツールが検出できないリスク(文脈に依存する名誉毀損の可能性など)もあるため、人間による最終確認は不可欠です。
人間承認フローの設計
自動検証後の人間承認フローでは、以下の点を明確にする必要があります。
- 誰が最終承認するか: 法務担当者、コンテンツ責任者、または両者の連名など
- 承認/差し戻しの判断基準: チェックリストの不合格項目数、リスクの重大性など
- 差し戻し時の修正フロー: 誰が修正し、再チェックは誰が行うか
- 記録の保管: 承認履歴、チェック結果の保管期間と方法
件数が増えても回る運用を設計するには、承認権限の分散(軽微な記事は課長承認、リスクの高い記事は法務承認など)も検討します。
まとめ:属人化から仕組み化へ
AI記事の法的チェックを属人化から仕組み化へ転換することで、公開品質を担保しながらコンプライアンスリスクを回避できます。
本記事で紹介した内容を整理すると、以下のポイントが重要です。
- AI記事には著作権侵害、ハルシネーション、情報漏えいなどの法的リスクがある
- 法務担当者の目視確認だけでは件数増加に伴いチェック漏れが発生しやすい
- チェックリスト+自動検証ツール+人間承認フローの組み合わせが有効
- 「人間の最終責任」を明確化することが不可欠
AIガバナンス白書2026年版によると、トップレベルのガバナンス体制を持つ企業の58%がAI投資から明確なROIを実現しています(グローバル調査)。法的リスクへの対応は、単なるコスト・負担ではなく、AI活用の成果を最大化するための投資と捉えることができます。
本記事で紹介したチェックリストを活用し、自社のAI記事運用体制を見直してみてください。AI記事の法的チェックは、法務担当者の目視確認だけでは件数増加に伴い漏れが生じやすく、ファクトチェック自動化+人間承認フローの仕組み化によって公開品質を担保しながらコンプライアンスリスクを回避できます。
