1人マーケターが直面する「全部自分でやらなければ」のプレッシャー
実は、1人マーケターが成果を出すには、施策を増やすことではなく、戦略(誰に・何を・なぜ)を明確にした上で「やらないこと」を決め、品質を担保しながら継続できる仕組みを作ることが重要です。
「Webを強化しろ」「リードを取れ」と言われても、時間も人手も足りない——。BtoB企業でマーケティングを1人で担当することになった方の多くが、このような状況に直面しています。
1人マーケターとは、BtoBマーケティング業務を1人で担当する体制を指します。兼任を含め、日本BtoB企業では限られた割合に留まっています。
2025年のBtoBマーケティング担当者330名を対象とした調査によると、マーケティング業務従事人数で「1人体制」は5.2%に留まり、4名以上のチーム体制が73.3%を占めています。つまり、1人体制は少数派であり、多くの企業では複数人のチームでマーケティングを回しているのが実態です(調査サンプルは大企業寄りの可能性があり、中小企業では1人体制の割合が異なる可能性があります)。
また、2025年4月の900名を対象とした調査では、BtoBマーケティングの主な課題として「人手不足、体制が整っていない」が34.3%で1位、「予算が少ない」が26.1%で2位となっています。1人体制ではこれらの課題が特に深刻化しやすい状況にあります。
この記事で分かること
- 1人マーケターが陥りやすい失敗パターンとその原因
- 限られたリソースで成果を出すための施策選定の考え方
- ツール・AI活用による業務効率化の方法
- 担当者が変わっても回る仕組みの作り方
なぜ1人体制で施策を増やすと失敗するのか
施策を増やすほどリードが増えるという考え方は、1人体制では成果につながらないケースが多いです。むしろ、リソースを分散させることで各施策が中途半端になり、結果として成果が出にくくなるリスクがあります。
よくある誤解として「施策を増やせばリードが増える」という考え方があります。これは複数人のチームでマーケティングを回せる企業には当てはまる場合もありますが、1人体制では失敗パターンになりやすいのが現実です。
CPA(リード獲得単価) とは、1件のリード獲得にかかるコストを指します。BtoB企業では5,000〜15,000円が目標・実績として多いと言われています。
2025年度の調査では、Web広告の課題として「費用対効果向上」が47.2%、「質の高いリード獲得」が46.2%で最多となっています。施策を増やしても、費用対効果が合わなければ意味がありません。
リソース分散が招く品質低下の悪循環
1人で10施策を同時に回そうとすると、各施策に割ける時間は単純計算で1/10になります。SEO記事、Web広告、SNS運用、メルマガ、ホワイトペーパー作成、展示会準備、ウェビナー企画…と手を広げるほど、一つひとつの施策にかけられる工数は減っていきます。
中途半端な品質の施策は、成果が出にくいだけでなく、「やった意味がなかった」という徒労感にもつながります。さらに成果が出ないからと新しい施策を追加し、またリソースが分散する——という悪循環に陥るケースも少なくありません。
「1人だから全部自分でやらなければならない」という考え方も、成果を出しにくくする要因の一つです。 すべてを自分でやろうとするのではなく、やらないことを決めることが、1人マーケターにとって重要な判断になります。
1人マーケターの施策選定|「やらないこと」を決める
限られたリソースで成果を出すには、施策を絞り込んで集中投資することが有効です。特に、一度作れば継続的にリード獲得につながる「ストック型施策」を優先することで、1人でも成果を出しやすい体制を作ることができます。
ストック型施策とは、SEOコンテンツやホワイトペーパーなど、一度作成すれば継続的にリード獲得できる施策を指します。広告のように運用を止めると効果がなくなるフロー型施策とは対照的に、資産として蓄積されていく特徴があります。
ある企業では、認知拡大用のSEOコンテンツ数十本とリード獲得用ホワイトペーパーに集中投資した結果、1年でアクセス数8倍、CV件数6倍に増加した事例が報告されています。ただし、これは成功事例であり、再現性は企業規模・業界・商材により異なります。
【比較表】施策別・工数対効果比較表
| 施策タイプ | 初期工数 | 継続工数 | 効果の持続性 | 1人体制との相性 |
|---|---|---|---|---|
| SEO記事 | 高 | 低 | 長期 | ◎ |
| ホワイトペーパー | 高 | 低 | 長期 | ◎ |
| メールナーチャリング | 中 | 中 | 中期 | ○ |
| ウェビナー | 高 | 高 | 短期 | △ |
| Web広告 | 中 | 高 | 短期(停止で終了) | △ |
| 展示会出展 | 高 | 高 | 短期 | × |
| SNS運用 | 低 | 高 | 短期 | △ |
※「1人体制との相性」は、継続工数の低さと効果の持続性を重視した参考評価です。業種・ターゲットにより最適な施策は異なります。
ストック型施策への集中投資
1人体制でまず取り組むべきは、SEO記事やホワイトペーパーなどのストック型施策です。初期の制作工数はかかりますが、一度作ってしまえば継続的にリードを獲得し続けることができます。
先述の事例のように、SEOコンテンツとホワイトペーパーに集中投資することで、1人でもアクセス増加とCV獲得を実現できる可能性があります。ただし、成果が出るまでには一定期間が必要であり、短期的な成果を求める場合は別の施策との組み合わせも検討が必要です。
一方、Web広告のように運用を止めると効果がなくなるフロー型施策は、1人体制では優先度を下げることも選択肢の一つです。運用工数が継続的にかかるため、リソースが限られる中では「やらない」という判断も有効です。
業務効率化のためのツール・AI活用
1人体制で成果を出すためには、ツールやAIを活用した業務効率化が欠かせません。特に、生成AIを活用したコンテンツ制作の効率化は、多くの企業で効果を実感しているとの調査結果があります。
MA(マーケティングオートメーション) とは、メール配信やリード育成プロセスを自動化するツールを指します。1人体制での業務効率化に有効であり、手作業で行っていた配信業務を自動化することで、本来注力すべき施策に時間を使えるようになります。
2025年の調査では、BtoBマーケティング業務で生成AI活用により「やや削減された」47.5%を含め、65.7%が外注費削減効果を実感しています。ただし、この調査はサンプル規模が不明であり、全体像の代表性には限界がある点に注意が必要です。
ある企業では、生成AIでコンテンツ制作を効率化し、2024年度に300万円のコスト削減、2025年度は記事制作時間の半減を達成したという事例が報告されています。これは自社事例のため、他社での再現性は検証が必要ですが、AI活用の可能性を示す参考になります。
生成AIでコンテンツ制作を効率化する
生成AIを活用することで、記事の下書きやアウトライン作成、リサーチの補助など、コンテンツ制作の工数を削減できます。65.7%が外注費削減効果を実感しているという調査結果は、1人マーケターにとってAI活用が有効な選択肢であることを示しています。
ただし、「AI導入だけで自動化できる」という誤解は避ける必要があります。 AIが生成したコンテンツをそのまま公開するのではなく、品質チェックや事実確認の工程は人間が担う必要があります。AI活用と品質担保の仕組みを組み合わせることで、効率化と品質の両立が可能になります。
具体的には、以下のような使い分けが考えられます:
- AIに任せる:下書き作成、アウトライン生成、リサーチ補助、文章校正
- 人間が担う:戦略設計、品質チェック、事実確認、最終承認
1人でも回る仕組みの作り方
担当者が変わっても継続できる仕組みを作ることは、1人マーケターにとって重要なテーマです。属人化を防ぎ、再現性のあるマーケティング運用を実現するためには、ツールの標準化とマニュアル化が欠かせません。
リードナーチャリングとは、獲得したリードを継続的に育成し、購買検討段階を引き上げるプロセスを指します。MAツールと連携することで、1人でも効率的にナーチャリングを回すことが可能になります。
2025年の調査によると、小規模組織(3名以下)で成果を出している企業の共通項として、「誰でも使えるツール導入」「マニュアル化」「情報共有の仕組み化」が挙げられています。担当者が一人でも、仕組みを整えることで成果を出せる可能性があるということです。
【チェックリスト】1人マーケターの施策選定チェックリスト
- ターゲット(誰に)が明確に定義されている
- 訴求メッセージ(何を)が整理されている
- 差別化ポイント(なぜ自社か)が言語化されている
- 現在実施中の施策を一覧化している
- 各施策の工数(月間時間)を把握している
- 各施策の成果指標を設定している
- 成果が出ていない施策を「やめる」判断ができている
- ストック型施策(SEO記事・ホワイトペーパー)を優先している
- 運用工数の高いフロー型施策の優先度を下げている
- ツールで自動化できる業務を洗い出している
- マニュアル・手順書を作成している
- 情報をチームや後任に共有できる仕組みがある
- 定期的に施策の見直しを行う日程を決めている
- 外注・委託すべき業務を特定している
- AI活用で効率化できる業務を洗い出している
マニュアル化と情報共有の仕組み
1人体制であっても、マニュアル化と情報共有の仕組みを整えておくことで、担当者交代時の引き継ぎがスムーズになります。また、自分自身の業務の棚卸しにもつながり、効率化のポイントが見えてくることもあります。
誰でも使えるツールの選定も重要です。 高機能なツールであっても、操作が複雑で使いこなせなければ意味がありません。学習コストが低く、直感的に操作できるツールを選ぶことで、担当者が変わっても継続的に運用できる体制を作ることができます。
ナレッジを残す仕組みとしては、以下のような方法が考えられます:
- 施策ごとの運用マニュアルを作成・更新する
- 過去の施策結果と学びをドキュメント化する
- ツールの設定内容や運用ルールを記録する
- 定期的にナレッジを振り返り、改善点を反映する
まとめ:施策を増やすのではなく「仕組み」で成果を出す
本記事では、1人でBtoBマーケティングを担当することになった方に向けて、成果を出すための施策選定と仕組み化の方法を解説しました。
- BtoBマーケティングの課題として「人手不足」34.3%、「予算不足」26.1%が上位
- 施策を増やすとリソース分散で品質が低下するリスクがある
- ストック型施策(SEO記事・ホワイトペーパー)への集中投資が1人体制に適している
- 生成AI活用で65.7%が外注費削減効果を実感(品質担保との組み合わせが重要)
- 小規模組織で成果を出すには、ツール標準化・マニュアル化・情報共有の仕組みが共通項
1人マーケターが成果を出すには、施策を増やすことではなく、戦略(誰に・何を・なぜ)を明確にした上で「やらないこと」を決め、品質を担保しながら継続できる仕組みを作ることが重要です。
「全部自分でやらなければならない」というプレッシャーから抜け出し、本記事で紹介したチェックリストを活用して、まずは自社の施策を棚卸しするところから始めてみてください。やらないことを決めることで、本当に注力すべき施策に時間を使えるようになります。
