コンテンツを作っても顧客に刺さらない理由はインサイト不在にある
顧客インサイトを理解し、商談につながるコンテンツを設計できるようになるために必要なのは、表面的なデータ分析だけでなく、顧客の課題・悩み・意思決定プロセスを深く理解し、コンテンツ企画の段階で「誰に・何を・なぜ」を明確にすることです。
多くのBtoB企業がコンテンツマーケティングに取り組んでいますが、「コンテンツを作っても顧客に刺さらない」「ターゲットの本当の課題が分からない」という悩みを抱えています。BtoB購買担当者は購買プロセスの約57%を営業担当者に会う前にオンラインで情報収集・比較検討して完了させるとされています。つまり、オンラインコンテンツの質が商談につながるかどうかを左右するのです。
しかし、アクセス解析の数値改善に注力しても、なぜか問い合わせや商談につながらない。その原因の多くは、インサイト(顧客の無自覚な欲求や潜在的な行動・意図を捉えた深い洞察)の不在にあります。
この記事で分かること
- インサイトとは何か(マーケティング文脈での正しい定義)
- 表面的なデータ分析ではインサイトが見えない理由
- インサイト不在のコンテンツが商談につながらない構造的な問題
- インサイトを発見・収集する具体的な方法とチェックリスト
- インサイトをコンテンツに反映する設計フレームワーク
インサイトとは何か|マーケティング文脈での正しい理解
インサイトとは、顧客の無自覚な欲求や潜在的な行動・意図を捉えた深い洞察を指します。表層的なニーズ(顧客が自覚していて言語化できる欲求)を超えて、「なぜそう行動するのか」「本当は何を求めているのか」を理解することがインサイトの本質です。
日本マーケティング協会は2024年1月25日にマーケティングの定義を34年ぶり(前回1990年)に刷新しました。この背景には、顧客理解の深さがマーケティング成果を左右するという認識の広がりがあります。
インサイトを理解するためには、関連する概念との違いを押さえることが重要です。
ファーストパーティデータとは、自社が直接収集した顧客データです。Webサイトの行動履歴や購買履歴などが該当します。これらのデータは「何が起きたか」を示しますが、「なぜそう行動したか」までは分かりません。
ゼロパーティデータとは、顧客が自発的・意図的に企業に共有するデータです。アンケート回答や嗜好設定などが該当し、顧客の意図や希望を直接把握できる点でインサイト発見に有用です。
表面的なデータ分析ではインサイトは見えない
アクセス解析やエンゲージメント数値だけを見てコンテンツを改善しようとするアプローチは、よくある失敗パターンです。データから「何が起きたか」は分かりますが、「なぜ顧客がそう行動したか」の深層理解(インサイト)がないため、表面的な改善に終わり商談につながりません。
たとえば、あるページの滞在時間が短いことが分かっても、それが「情報が不足していて物足りない」のか「欲しい情報がすぐ見つかって満足した」のかは、数値だけでは判断できません。顧客の行動の「理由」を理解しなければ、的外れな改善施策を繰り返すことになります。
インサイト不在のコンテンツが商談につながらない理由
インサイトがないコンテンツは、顧客の本当の課題に寄り添えないため、「読まれても刺さらない」「PVは増えても問い合わせにつながらない」という状況を生み出します。
BtoB購買担当者のオンライン情報収集手段はウェブ検索81%、業界レポート34%が上位とされています(海外BtoB市場データを含むため、日本市場では異なる可能性があります)。また、LinkedIn調査では海外BtoB購買担当者の55%以上が意思決定前に企業のSNS投稿を確認しているという結果もあります。
これらのデータが示すのは、BtoB購買担当者は自ら情報を収集し、比較検討を行っているということです。しかし、顧客が求めている情報と、企業が発信しているコンテンツにギャップがあれば、どれだけコンテンツを量産しても商談にはつながりません。
インテントデータとは、顧客の購買意向を示すデータで、検索行動やコンテンツ閲覧パターンから推定されます。インテントデータを活用しても、その背後にあるインサイト(なぜその情報を求めているのか)を理解していなければ、適切なコンテンツを提供することはできません。
よくある失敗パターン:数値改善が目的化する
PV数やエンゲージメント率の向上が目的化し、商談につながらないケースは少なくありません。
(例)ある企業のコンテンツ改善施策
- 施策: SEO対策でPVを月間10,000から30,000に増加
- 結果: PVは3倍になったが、問い合わせ数は変わらず
- 原因: 集客したユーザーの課題と、自社サービスの価値がマッチしていなかった ※ 実際の成果は業種・ターゲット・コンテンツ内容により大きく変動します
このような失敗は、「誰に」「何を」「なぜ」伝えるかを明確にせず、数値目標だけを追いかけた結果です。インサイトに基づかないコンテンツは、たとえ数値が改善しても商談にはつながりません。
インサイトを発見・収集する方法とチェックリスト
インサイトを発見するためには、顧客データの収集と分析を体系的に行う必要があります。ファースト/ゼロパーティデータ収集ポイント設計で1-2ヶ月、インフルエンサーマップ作成で1ヶ月が業界標準とされています。
インサイト発見のためのデータ収集には、いくつかのアプローチがあります。
定量データの収集
- Webサイトの行動履歴(どのページをどの順序で閲覧したか)
- 検索クエリ(どのようなキーワードで流入しているか)
- メール開封率・クリック率(どのテーマに関心が高いか)
定性データの収集
- 顧客インタビュー(課題や意思決定プロセスを深掘り)
- 営業担当からのフィードバック(商談で出る質問や懸念点)
- アンケート調査(顧客の優先順位や不満点を把握)
【チェックリスト】インサイト発見チェックリスト
- ターゲット顧客の業種・役職・課題を明文化している
- 過去の問い合わせ内容を分類・分析している
- 営業担当から商談時の顧客の質問・懸念を定期的に収集している
- 顧客インタビューを定期的に実施している(最低年2回以上)
- 顧客が使う言葉・表現をそのまま記録している
- 顧客が「言っていること」と「行動」のギャップを確認している
- 競合との比較検討時に顧客が重視するポイントを把握している
- 購買決定に至るまでの意思決定プロセスを理解している
- 購買を見送った理由(失注理由)を分析している
- 顧客が抱える「言語化できていない課題」を仮説立てしている
- Webサイトの検索クエリを定期的に確認している
- ゼロパーティデータ(アンケート・設定等)の収集ポイントを設計している
- カスタマージャーニーの各タッチポイントでのデータ収集を計画している
- 収集したデータをインサイトに変換する分析プロセスを持っている
- インサイトをチーム内で共有・更新する仕組みがある
顧客の言葉をそのまま鵜呑みにしない
インタビューやアンケートで顧客が述べた内容を、そのままインサイトと捉えてしまうのは危険です。顧客は自分のニーズや課題を正確に言語化できないことが多く、表層的な発言にとどまるケースがあります。
たとえば、「もっと安いサービスが欲しい」という発言の背後には、「価格に見合う価値が分からない」「導入効果を上司に説明できない」といった本当の課題が隠れていることがあります。表面的な発言をそのまま受け取ると、「値下げすれば売れる」という誤った結論に至ってしまいます。
顧客の発言を深掘りし、「なぜそう思うのか」「それが解決されるとどうなるのか」を繰り返し問うことで、真のインサイトに近づくことができます。
インサイトをコンテンツに反映する設計フレームワーク
インサイトを発見したら、それをコンテンツ企画に落とし込む必要があります。「誰に・何を・なぜ」を明確にすることで、インサイトに基づいた一貫性のあるコンテンツを設計できます。
インタラクティブコンテンツで顧客自身が課題を認識する流れを支援し、見込み客を2倍に増加させた事例があります(企業自社発表ベースで第三者検証はされていません)。また、MAツール導入企業でWebからの反響が10倍に増加、問い合わせからのアポイント獲得率平均40%を達成した事例も報告されています(個別企業事例であり一般化には注意が必要です)。
これらの事例に共通するのは、顧客のインサイトに基づいてコンテンツを設計し、顧客自身が「自分ごと」として課題を認識できるようにしている点です。
ABM(アカウントベースドマーケティング) とは、特定の企業(アカウント)を絞り込み、個別にアプローチするマーケティング手法です。ABMでは、ターゲット企業のインサイトを深く理解し、パーソナライズされたコンテンツを提供することが成功の鍵となります。
【比較表】インサイト活用コンテンツ設計フレームワーク
| 設計要素 | 問いかけ | 悪い例 | 良い例 |
|---|---|---|---|
| 誰に(Who) | ターゲットは誰か? | 「製造業の担当者」 | 「製造業の生産管理部門で、属人化した業務の標準化に課題を感じている課長クラス」 |
| 何を(What) | 何を伝えるか? | 「自社サービスの機能紹介」 | 「属人化解消のための3つのアプローチと、自社サービスがどう貢献できるか」 |
| なぜ(Why) | なぜそれを伝えるか? | 「サービスを売りたいから」 | 「顧客が抱える『ベテラン退職後の業務継続』という不安を解消し、検討段階に進んでもらうため」 |
| どのように(How) | どんな形式で伝えるか? | 「機能一覧のページ」 | 「課題診断コンテンツで自社の状況を可視化し、解決策として導線を設計」 |
| いつ(When) | カスタマージャーニーのどの段階か? | 「いつでも」 | 「課題認識〜情報収集段階(購買プロセスの初期)」 |
「誰に・何を・なぜ」を明確にするステップ
コンテンツ企画の段階で以下の3要素を固定することで、インサイトに基づいた一貫性のあるコンテンツを設計できます。
ステップ1: 誰に(ターゲットの明確化)
- 業種・企業規模・部門・役職を特定する
- その人物が抱えている課題・悩みを言語化する
- 購買における役割(決裁者・推進者・利用者)を把握する
ステップ2: 何を(提供価値の明確化)
- ターゲットの課題に対してどんな解決策・情報を提供するか
- 自社ならではの独自の視点・知見は何か
- 競合との違いをどう伝えるか
ステップ3: なぜ(目的の明確化)
- このコンテンツで読者にどんな行動を取ってほしいか
- 読者がこのコンテンツを読む動機は何か
- コンテンツを通じて解消したい読者の不安・疑問は何か
この3要素を企画書に明記し、チーム内で共有することで、コンテンツの方向性がブレることを防げます。
まとめ:インサイト起点のコンテンツ設計で商談につなげる
BtoB企業がコンテンツマーケティングで成果を出すためには、インサイトを起点としたコンテンツ設計が不可欠です。
本記事で解説したポイントを振り返ります。
インサイトの本質を理解する
- インサイトとは顧客の無自覚な欲求や潜在的な行動意図を捉えた深い洞察
- 表面的なニーズではなく「なぜそう行動するのか」を理解することが重要
表面的なデータ分析の限界を認識する
- アクセス解析の数値だけでは「なぜ顧客がそう行動したか」は分からない
- PV増やエンゲージメント率向上が目的化すると商談につながらない
インサイトを体系的に収集する
- 本記事で紹介したチェックリストを活用し、データ収集と分析を行う
- 顧客の言葉をそのまま鵜呑みにせず、深掘りして真のインサイトを探る
「誰に・何を・なぜ」を固定してコンテンツを設計する
- インサイトに基づいてターゲット・提供価値・目的を明確にする
- コンテンツ設計フレームワークを活用し、一貫性のある企画を行う
表面的なデータ分析だけでなく、顧客の課題・悩み・意思決定プロセスを深く理解し、コンテンツ企画の段階で「誰に・何を・なぜ」を明確にすることが、商談につながるコンテンツ設計の鍵です。
まずは、本記事のチェックリストを使って自社のインサイト収集状況を確認し、足りない項目から取り組みを始めてみてください。
