SaaSマーケティングで成果が出ない原因は戦略の不在にある
SaaSマーケティングで成果を出すには、施策の網羅ではなく、ターゲット・訴求軸を言語化して全コンテンツに一貫させる仕組みと、PVではなくCVR・商談化率を起点とした戦略設計が重要である——本記事ではこの結論を詳しく解説します。
国内SaaS市場は急成長を続けています。IDC Japanの予測によると、2024年の市場規模は1.4兆円で、2028年には2兆円(約1.5倍)に拡大する見込みです。また、スマートキャンプの「SaaS業界レポート2025」では、2029年度に3兆4,000億円に到達するとの予測もあります(調査機関により数値に乖離がある点には注意が必要です)。
市場が拡大する一方で、「コンテンツを増やしてもリードの質が上がらない」「PVは伸びても商談につながらない」という悩みを抱えるマーケティング担当者は多いのではないでしょうか。
この記事で分かること
- SaaSマーケティングで押さえるべき重要KPI(LTV、CAC、チャーン率など)の意味と設定方法
- 主要なマーケティング手法と成果指標の対応関係
- ターゲット・訴求軸を言語化し、全コンテンツに一貫させる仕組み
- CVR・商談化率を起点としたコンテンツ設計の考え方
SaaSマーケティングで押さえるべき重要KPIと用語
SaaSビジネスの成果を測定するには、LTV・CAC・チャーン率・ARR・NRRという5つのKPIを理解することが基本です。ただし、Ragate社の調査(SaaS事業責任者550名対象、2026年1月)によると、KPI(LTV/NRR等)の体系化・運用が完了している企業はわずか9.6%にとどまっています(自己申告ベースのためバイアスの可能性があります)。
この数値が示すように、KPIを設定するだけでなく、継続的に運用し改善する体制を構築することが重要です。
LTV・CACとその関係性
LTV(顧客生涯価値) とは、1顧客が取引開始から終了までに企業にもたらす総収益を指します。SaaSビジネスは継続課金モデルであるため、LTVは最も重要な指標のひとつです。
CAC(顧客獲得コスト) とは、新規顧客1件を獲得するためにかかる総コストです。広告費、営業人件費、ツール費用などが含まれます。
SaaSビジネスではLTVとCACのバランスが収益性を左右します。LTVがCACを大きく上回る状態を維持できれば、持続的な成長が可能になります。
チャーン率・NRRの重要性
チャーン率(解約率) とは、一定期間内に解約した顧客の割合です。SaaSでは月次・年次で測定し、継続率向上が重要な課題となります。
NRR(純収益維持率) とは、既存顧客からの収益維持・拡大率を示す指標です。アップセル・クロスセルによる収益増加も含まれ、一般的に110%を超えると優良とされています。
チャーン率を抑え、NRRを高めることが、SaaSビジネスの持続的成長には不可欠です。
SaaSマーケティングの主要手法と成果指標
SaaSマーケティングには複数の手法がありますが、「手法を網羅的に導入すれば成果が出る」という考え方は誤りです。これはよくある失敗パターンであり、戦略(誰に・何を・なぜ)を言語化しないまま施策を実行してしまうと、「コンテンツは増えたがリードの質が低い」「記事ごとに訴求がバラバラで商談につながらない」状態に陥りやすくなります。
2025年の調査によると、企業の約7割がSaaSを活用しており、1社あたりのSaaS利用数は「5個以下」が52.9%、「11個以上」が33.0%と、従業員数の増加に伴い利用数が増える傾向にあります。市場は成熟しつつあり、差別化された訴求が求められています。
【比較表】SaaSマーケティング手法と成果指標の対応表
| 手法 | 主な施策 | 主要な成果指標 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| コンテンツマーケティング | SEO記事、ホワイトペーパー、ウェビナー | CVR、商談化率、MQL数 | 長期的な資産形成、認知獲得に有効 |
| 広告・リードジェネレーション | リスティング広告、SNS広告、展示会 | CPA、CAC、リード獲得数 | 短期的な成果が見込める、CACに直結 |
| メールマーケティング | ナーチャリングメール、ステップメール | 開封率、クリック率、商談化率 | 既存リードの育成、低コスト |
| プロダクトマーケティング | 無料トライアル、フリーミアム | トライアル転換率、有料化率 | プロダクト体験による説得力 |
| カスタマーサクセス | オンボーディング、活用支援 | チャーン率、NRR、CSAT | 解約防止、アップセル機会創出 |
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングはSEO記事、ホワイトペーパー、ウェビナーなどを通じて見込み顧客を獲得する手法です。重要なのは、PVを増やすことではなく、CVR・商談化率を起点とした設計です。
「PVを増やせば成果が出る」という誤解は、SaaSマーケティングでよく見られる失敗パターンです。PVが増えてもターゲット外の流入が多ければ商談にはつながりません。
広告・リードジェネレーション
有料広告やリード獲得施策は、短期的に成果を出したい場合に有効です。ただし、広告費はCACに直結するため、戦略との整合性が特に重要になります。
ターゲットが明確でなければ、広告費をかけても質の低いリードが増えるだけです。戦略を先に固めることで、広告投資の効率が大きく変わります。
戦略の一貫性を担保するコンテンツ設計
SaaSマーケティングで成果を出すには、「誰に・何を・なぜ」を言語化し、全コンテンツに一貫して反映させる仕組みが必要です。
2025年のスマートキャンプ調査(n=1,500)によると、SaaS利用率は全国平均31.8%、関東地域では49.8%に達しています。市場の成熟に伴い、ターゲットを絞り込んだ訴求がますます重要になっています。
ターゲット・ペルソナの設定方法
SaaSマーケティングにおけるペルソナ設定では、役職・部署・課題・悩みを必須要素として定義することが重要です。
具体的には以下の項目を言語化します。
- 役職・立場: 意思決定者か、現場担当者か
- 部署・業務: どのような業務課題を抱えているか
- 課題・悩み: 解決したい具体的な問題は何か
- 情報収集行動: どのような経路で情報を探すか
これらを文書化し、コンテンツ制作者全員が参照できる状態にすることで、一貫性を担保できます。
CVR・商談化率を起点とした設計
コンテンツ設計は、PVではなくCVR・商談化率から逆算して行います。「どのようなユーザーが、どのような記事を読み、どのような行動をとれば商談につながるか」を先に設計し、そこから必要なコンテンツを導き出すアプローチです。
【チェックリスト】SaaSマーケティング戦略設計チェックリスト
- ターゲット顧客の役職・部署を明確に定義している
- ターゲット顧客の課題・悩みを具体的に言語化している
- 自社の強み・差別化ポイント(USP)を明文化している
- 競合との違いを説明できる状態になっている
- LTV・CAC・チャーン率などのKPIを設定している
- KPIの測定方法と頻度を決めている
- コンテンツごとの目標CVRを設定している
- CVRから商談化率への導線を設計している
- ペルソナ情報をコンテンツ制作者全員が参照できる
- 訴求軸が全コンテンツで一貫しているか定期的に確認している
- PVだけでなくCVR・商談化率を定期的にレビューしている
- 成果が出ていない施策を見直す基準を決めている
SaaSマーケティング戦略の実践ステップ
戦略設計から施策実行、効果検証までを段階的に進めることが重要です。先述の通り、KPIの体系化・運用が完了している企業は9.6%にとどまっており(自己申告ベース)、多くの企業が設計途上にあります。
成功事例としては、SalesTech領域でAI融合による営業効率化を実現し、サービス開始2年でARR20億円を達成した企業の報告があります(企業発表ベースであり、因果関係の検証は十分ではありません)。
スモールスタートでKPI設計を進める
KPI運用完了が9.6%にとどまる現状を踏まえると、最初から完璧な体制を目指すのではなく、スモールスタートで始めることが現実的です。
具体的なステップは以下の通りです。
- 最重要KPIを1-2個に絞る: まずはLTVとCACなど、基本的な指標から測定を始める
- 月次でレビューする仕組みを作る: 定期的に数値を確認し、改善点を洗い出す
- 成果に応じて指標を追加する: 基本指標が安定してからNRRやチャーン率を追加
- PDCAを回し続ける: 継続的な検証と改善が成果につながる
まとめ|施策網羅より戦略一貫性と商談化率起点で成果を出す
本記事では、SaaSマーケティングで成果を出すための戦略設計について解説しました。
重要なポイントを整理します。
- KPIの理解と設定: LTV、CAC、チャーン率、ARR、NRRの5つのKPIを理解し、測定・運用する体制を構築する
- 戦略の一貫性: ターゲット・訴求軸を言語化し、全コンテンツに反映させる仕組みを作る
- 成果指標起点の設計: PVではなく、CVR・商談化率から逆算してコンテンツを設計する
- スモールスタート: 最初から完璧を目指さず、段階的にKPI運用を拡大する
「マーケティング手法を網羅的に導入すれば成果が出る」という考え方では、コンテンツは増えても商談にはつながりません。
SaaSマーケティングで成果を出すには、施策の網羅ではなく、ターゲット・訴求軸を言語化して全コンテンツに一貫させる仕組みと、PVではなくCVR・商談化率を起点とした戦略設計が重要です。
本記事のチェックリストを活用し、自社の戦略設計状況を確認することから始めてみてください。
