「契約書さえ法務に通せば大丈夫」が招くリスク
記事の法務チェックで成功するには、契約書だけでなく、公開コンテンツ(広告表現・引用・著作権)まで範囲を広げ、チェック項目を体系化して公開前に確認する仕組みを作ることでリスクを未然に防げます。
「契約書さえ法務に通せば大丈夫」という考え方は危険です。実際には、広告表現や記事コンテンツのチェックが属人化・抜け落ちてしまい、後から法的リスクが顕在化するケースが少なくありません。
契約書は法務部や弁護士に依頼するのが一般的ですが、自社サイトに公開する記事やブログ、SNS投稿などは現場のマーケティング担当者が判断を迫られることが多いのが実情です。「この表現は景品表示法に抵触しないか」「この引用は著作権法上問題ないか」といった判断を、法務の専門知識なしに行わなければならない場面は珍しくありません。
この記事で分かること
- 法務チェック(リーガルチェック)の定義と対象範囲
- 契約書チェックの基本ポイント
- 記事・コンテンツ公開における法務チェック項目(景表法・著作権・引用・肖像権)
- AI生成コンテンツ特有の法務リスクと確認ポイント
- 効率的な法務チェック体制の作り方と外部依頼の判断基準
法務チェック(リーガルチェック)とは|定義と対象範囲
法務チェック(リーガルチェック) とは、契約書の内容を法律専門家が精査し、法令違反・曖昧表現・不当条項を洗い出して法的リスクを未然に防ぐ作業を指します。広義には、契約書だけでなく、広告表現・記事コンテンツ・引用なども対象に含まれます。
法務チェックの対象を契約書だけに限定していると、以下のようなリスクが見落とされがちです。
- コンプライアンス違反: 法令に抵触する表現・行為
- 景品表示法違反: 優良誤認・有利誤認に該当する広告表現
- 著作権侵害: 他者の著作物を無断で使用
- 肖像権侵害: 人物写真を許諾なく使用
この記事では、契約書チェックの基本を押さえつつ、記事・コンテンツ公開前のチェック項目を体系的に解説します。
契約書チェックと記事コンテンツチェックの違い
契約書チェックと記事コンテンツチェックでは、確認すべき観点が異なります。
契約書チェックは、法務部や弁護士に依頼するケースが多く、発注内容の書面交付、支払条件、リスク条項(免責・秘密保持・契約解除)などを確認します。一方、記事コンテンツチェックは、現場のマーケティング担当者が判断を迫られることが多く、広告表現・引用・著作権などを確認する必要があります。
3条書面とは、下請法で義務付けられた発注書面で、発注日・業務内容・納品期限・代金額・支払期日等を明記する必要があります。外注先への発注時に必要となる書面です。
なお、取適法(中小受託取引適正化法) は2026年1月施行予定の法律で、下請法を改正し、資本金基準から従業員基準へ変更、書面交付・支払期日義務を強化するものです。施行後は対応が必要となるため、発注書面や支払サイクルの点検を先行して実施することが推奨されます。
契約書チェックの基本ポイント
契約書の法務チェックでは、以下の項目を優先的に確認することが一般的です。マーケティング担当者が関わりやすい外注契約・委託契約を想定して解説します。
発注内容の書面交付
外注先への発注時には、3条書面として発注内容を書面で明示する必要があります。口頭のみの発注は、後からトラブルになった際に証拠が残らないリスクがあります。発注日、業務内容、納品期限、代金額、支払期日を明記した書面を作成・保管することが重要です。
支払条件の確認
支払期日は、役務提供を受けた日(納品日)から原則として60日以内に設定する必要があります。長期の支払サイクルを設定している場合は、法改正に合わせて見直しが必要になる可能性があります。
リスク条項の確認
契約書に含まれるリスク条項(免責条項・秘密保持条項・契約解除条項)は、自社に不利な内容になっていないかを確認します。特に、免責条項が広範すぎる場合や、契約解除条件が一方的な場合は注意が必要です。
これらは一般的なチェックポイントであり、具体的な判断が必要な場合は法務部や弁護士への相談を推奨します。
記事・コンテンツ公開における法務チェック項目
記事・コンテンツを公開する際には、契約書とは異なる観点でのチェックが必要です。以下のマトリクスで、チェック項目ごとの確認観点を整理しました。
【比較表】チェック項目×確認観点マトリクス
| チェック項目 | 確認観点 | よくある違反例 | 対処方法 |
|---|---|---|---|
| 景品表示法(優良誤認) | 商品・サービスの品質・性能を実際より優れていると誤認させる表現がないか | 「業界No.1」「最高品質」(根拠なし) | 根拠データを明示、または表現を控えめに修正 |
| 景品表示法(有利誤認) | 価格・取引条件を実際より有利と誤認させる表現がないか | 「通常価格10万円が今だけ半額」(実際には常時割引) | 比較対象価格の実績を確認、二重価格表示のルールを遵守 |
| 著作権(引用ルール) | 引用の要件(出所明示・主従関係・必然性)を満たしているか | 他社記事の大部分をコピーして自社記事に掲載 | 引用範囲を必要最小限に、出所を明示 |
| 著作権(転載許諾) | 他社コンテンツの転載許諾を取得しているか | 他社の画像・図表を無断で使用 | 事前に許諾を取得、またはライセンスを確認 |
| 肖像権 | 人物写真の使用許諾を取得しているか | 社員・顧客の写真を許諾なく掲載 | 撮影時に使用目的を明示し許諾を取得 |
| 商標権 | 他社商標を適切に使用しているか | 他社商標を自社商品名のように使用 | 商標であることを明示、使用ガイドラインを確認 |
| 個人情報 | 個人を特定できる情報を許諾なく掲載していないか | 顧客の実名・社名を許諾なく事例として掲載 | 事前に掲載許諾を取得 |
AI生成コンテンツの法務リスクと確認ポイント
AI生成コンテンツには、従来のコンテンツとは異なる法務リスクがあります。以下の点を確認することが重要です。
AI契約レビューとは、AIを活用して契約書のリスク条項を自動検出・修正案提示するツールを指します。一次チェックに有効ですが、人間による最終確認は必須です。
- 事実確認(ハルシネーションリスク): AI生成コンテンツには事実と異なる情報が含まれる可能性があります。数値・固有名詞・引用元は必ず人間が確認する必要があります
- 引用元の存在確認: AIが生成した引用が実際に存在するか、URLが有効かを確認します。存在しない引用元を掲載すると信頼性を損ないます
- 著作権侵害の可能性: AI学習データに含まれる著作物の表現がそのまま出力される可能性があります。類似表現がないか確認します
- 機密情報の意図しない出力: 社内の機密情報をAIに入力した場合、出力に含まれる可能性があります。入力内容と出力内容の両方を確認します
AIツールは一次チェックに有効ですが、最終判断は人間が行う前提で導入することが重要です。「AIに任せれば自動化できる」という認識は誤りで、人間によるレビューは省略できません。
効率的な法務チェック体制の作り方
法務チェックを効率化するには、チェック項目を体系化し、誰がチェックしても同じ品質を担保できる仕組みを作ることが重要です。
【チェックリスト】記事公開前の法務チェックリスト
- 「業界No.1」「最高」「最大」など根拠のない最上級表現がないか確認
- 「〇〇が必ず治る」「確実に成果が出る」など効果を断定する表現がないか確認
- 比較対象価格(通常価格等)に実績があるか確認(二重価格表示のルール遵守)
- 他社記事・書籍からの引用が引用の要件(出所明示・主従関係・必然性)を満たしているか確認
- 他社の画像・図表を使用する場合、転載許諾を取得しているか確認
- フリー素材を使用する場合、ライセンス条件(商用利用可・クレジット表記等)を確認
- 人物写真を使用する場合、被写体から掲載許諾を取得しているか確認
- 他社商標を使用する場合、使用ガイドラインに従っているか確認
- 顧客事例を掲載する場合、顧客から掲載許諾を取得しているか確認
- AI生成コンテンツの場合、数値・固有名詞・引用元を人間が確認したか
- AI生成コンテンツの場合、引用元URLが実際に存在するか確認したか
- 機密情報・個人情報が意図せず含まれていないか確認
- 法的に微妙な表現について、法務部または外部専門家に相談すべき箇所をリストアップしたか
AIツールの活用と限界
AI契約レビューツールの導入企業では、導入企業の報告によると平均70%のレビュー時間削減という結果が報告されています(2025年調査、導入実績100社以上)。ただし、これはベンダー寄りの調査データのため、自社での効果は検証が必要です。
また、Legal-BERTベースのAI契約レビューツールでは、RAG構成によりリスク検出再現率91%、正解率80%を達成したという技術検証結果もあります。単独でGPT-4oを使用した場合は59%と低迷したとの報告もあり、専用ツールの優位性が示唆されています。
これらの数値はあくまで参考値であり、AIツールは一次チェック用と位置づけ、最終判断は人間が行うことが前提です。
社内チェックと外部専門家への依頼の判断基準
すべてのコンテンツを弁護士にレビュー依頼するのは現実的ではありません。以下の基準で、社内対応と外部依頼を切り分けることが一般的です。
社内チェックで対応できる範囲
- 定型的な記事コンテンツの基本チェック(景表法・著作権の明らかな違反がないか)
- 過去に類似パターンで問題がなかったコンテンツ
- 本記事のチェックリストで網羅できる範囲
外部専門家への依頼を検討すべきケース
- 契約交渉を伴う案件(条件変更・特約追加など)
- 訴訟リスクが想定される案件(クレーム対応・競合との関係など)
- 法改正対応が必要な案件(取適法への対応など)
- 判断に迷う表現・引用があり、社内だけでは判断できない場合
特定の法律事務所や弁護士を推奨するものではありませんが、複雑な法的判断が必要な場合は専門家への相談を推奨します。
まとめ:契約書からコンテンツまで体系的にチェックする仕組みを
本記事では、記事公開前の法務チェック項目について、契約書だけでなくコンテンツまで網羅する実践的なアプローチを解説しました。
主要なポイントを振り返ります:
- 法務チェックの対象は契約書だけでなく、広告表現・記事コンテンツ・引用も含まれる
- 記事コンテンツでは景品表示法、著作権、肖像権、商標権のチェックが必要
- AI生成コンテンツには事実確認・引用元確認・著作権侵害の確認が追加で必要
- AIツールは一次チェックに有効だが、最終判断は人間が行う前提で導入する
- 本記事のチェックリストとマトリクスを活用し、属人化を防ぐ仕組みを構築する
「契約書さえ法務に通せば大丈夫」という認識では、広告表現や記事コンテンツのチェックが抜け落ち、法的リスクが顕在化する恐れがあります。
記事の法務チェックは、契約書だけでなく、公開コンテンツ(広告表現・引用・著作権)まで範囲を広げ、チェック項目を体系化して公開前に確認する仕組みを作ることでリスクを未然に防げます。本記事のチェックリストを活用し、誰がチェックしても同じ品質を担保できる体制を構築してください。
