カスタマージャーニーマップを作ったのに施策に活かせない理由
カスタマージャーニーマップを作ったが施策に落とし込めていないなら、マップを作って終わりではなく、各フェーズで「誰に・何を・なぜ」を明確にしたコンテンツ設計と連動させることが成功の鍵です。
カスタマージャーニーとは、顧客が製品・サービスを認知してから購入・継続利用に至るまでの行動・感情・思考を時系列で可視化したプロセスです。そしてカスタマージャーニーマップは、この購買プロセスを段階ごとに整理し、各段階での行動・感情・タッチポイントを図表化したものを指します。
多くのBtoB企業がカスタマージャーニーマップを作成していますが、「作ったものの、その後の施策に活かせていない」という課題を抱えています。その理由の一つに、BtoB特有の購買プロセスがあります。ある調査によると、BtoB購買担当者の約57%が営業担当者に会う前に購買プロセスの大半を完了しているとされています(ただし海外調査の引用であり、日本市場では異なる可能性があります)。つまり、営業接触前の「認知」「情報収集」フェーズで提供するコンテンツの質が、商談化に大きく影響するのです。
この記事で分かること
- BtoBカスタマージャーニーの基本と特殊性(複数意思決定者、長い検討期間)
- カスタマージャーニーマップの具体的な作成手順
- フェーズ別コンテンツ設計表を使った「誰に・何を・なぜ」の整理方法
- 作って終わりにしないための運用設計と改善サイクル
BtoBカスタマージャーニーの基本と特殊性を理解する
BtoBのカスタマージャーニーは、BtoCと比較して複雑で長期化する傾向があります。まずはこの特殊性を理解することが、効果的なジャーニー設計の第一歩です。
タッチポイントとは、顧客と企業の接点を指します。Webサイト、セミナー、営業訪問、メールなど、顧客が企業と接触するすべてのポイントが該当します。BtoBでは、このタッチポイントが多様かつ長期にわたるのが特徴です。
ペルソナとは、ターゲット顧客の具体的な人物像です。業界・企業規模・部署・役職・課題などを詳細に定義したものであり、カスタマージャーニー設計の起点となります。
BtoBとBtoCの購買プロセスの違い
BtoBの購買プロセスがBtoCと大きく異なる点は、意思決定者の複数性にあります。ある調査によると、BtoB企業の購買プロセスでは平均して6〜10人が意思決定に関与するとされています。
主な違いをまとめると以下のようになります。
- 意思決定者の複数性: 利用者、推進者、決裁者など複数の立場の人が関与する
- 検討期間の長さ: 数週間から数ヶ月、場合によっては年単位で検討が続く
- 稟議プロセスの存在: 社内承認フローを経るため、論理的な説得材料が必要
- リスク回避志向: 導入失敗のリスクを避けるため、慎重に比較検討を行う
これらの特徴は業界・商材・企業規模により大きく変動するため、自社の顧客に合わせたカスタマイズが必要です。
カスタマージャーニーマップの作成手順
カスタマージャーニーマップの作成は、ペルソナ設計から始まり、フェーズ定義、タッチポイントの洗い出しへと進みます。以下の手順で作成することが一般的です。
- ペルソナの設計: ターゲット顧客の人物像を具体化する
- フェーズの定義: 認知から導入後までの段階を設定する
- タッチポイントの洗い出し: 各フェーズでの顧客接点を特定する
- As-Isマップの作成: 現状の顧客体験を可視化する
- To-Beマップの設計: 理想の顧客体験を設計する
As-Isマップとは、現状の顧客体験を可視化したカスタマージャーニーマップのことです。課題発見と改善の出発点となるため、まずは現状を正しく把握することが重要です。
ペルソナ設計の実務ポイント
BtoBのペルソナ設計では、業界・企業規模・部署・役職で3〜5パターン作成することが推奨されています。単一のペルソナでは、複数の意思決定者が関与するBtoBの実態を捉えきれないためです。
設計時のポイントは以下のとおりです。
- 意思決定者と利用者の両方を設計する: 決裁権を持つ人と実際に使う人では課題が異なる
- 課題と情報ニーズを明確化する: 各ペルソナが何に困り、どんな情報を求めているかを言語化する
- 社内での立場を考慮する: 稟議を通す立場なのか、提案を受ける立場なのかで必要な情報が変わる
フェーズとタッチポイントの洗い出し方
一般的なBtoBカスタマージャーニーのフェーズは以下のように分類されます。
- 認知フェーズ: 課題を認識し、解決策を探し始める段階
- 興味フェーズ: 具体的なソリューションに興味を持つ段階
- 比較検討フェーズ: 複数の選択肢を比較し、絞り込む段階
- 意思決定フェーズ: 導入を決定し、社内承認を得る段階
- 導入後フェーズ: 導入後の活用・定着・拡大を図る段階
各フェーズにおける主要なタッチポイントの例としては、認知フェーズではSEO記事やSNS広告、興味フェーズではホワイトペーパーやセミナー、比較検討フェーズでは導入事例や機能比較表、意思決定フェーズでは提案資料や無料トライアル、導入後フェーズではサポート窓口やユーザーコミュニティなどが挙げられます。
フェーズ別コンテンツ設計——「誰に・何を・なぜ」を明確にする
カスタマージャーニーを施策に活かすためには、各フェーズで「誰に」「何を」「なぜ」提供するのかを明確にする必要があります。前述のとおり、BtoB購買担当者の約57%が営業接触前に購買プロセスの大半を完了しているとされており(海外調査)、初期フェーズのコンテンツ品質が商談化に直結します。
【比較表】フェーズ別コンテンツ設計表
| フェーズ | ターゲット(誰に) | 提供コンテンツ(何を) | 目的(なぜ) | 具体例 |
|---|---|---|---|---|
| 認知 | 課題を感じ始めた担当者 | 課題啓発型コンテンツ | 課題の言語化と解決策の存在を認知させる | SEO記事、業界レポート、SNS投稿 |
| 興味 | 解決策を探している推進者 | ソリューション紹介コンテンツ | 自社サービスへの興味喚起 | ホワイトペーパー、セミナー、メルマガ |
| 比較検討 | 複数案を比較する意思決定者 | 比較・検証コンテンツ | 競合との差別化と選定理由の提供 | 機能比較表、導入事例、ROI試算資料 |
| 意思決定 | 稟議を通す推進者・決裁者 | 導入支援コンテンツ | 社内承認の獲得を支援 | 稟議書サンプル、導入ステップ資料、無料トライアル |
| 導入後 | 利用者・管理者 | 活用促進コンテンツ | 定着と拡大を支援 | 活用マニュアル、成功事例、ユーザー会案内 |
認知・興味フェーズのコンテンツ設計
認知・興味フェーズでは、課題啓発型のコンテンツが効果的です。まだ自社サービスを知らない、または検討段階に入っていない潜在顧客に対して、課題を言語化し、解決策の存在を知ってもらうことが目的です。
具体的なコンテンツ例としては以下が挙げられます。
- SEO記事: 顧客が検索するキーワードに対応した課題解決型の記事
- ホワイトペーパー: 業界トレンドや調査データをまとめた資料
- セミナー・ウェビナー告知: 課題解決のノウハウを提供するイベント
このフェーズでは、売り込み色を抑え、読者にとって価値のある情報提供を優先することが重要です。
比較検討・意思決定フェーズのコンテンツ設計
比較検討・意思決定フェーズでは、導入を後押しするコンテンツが求められます。複数の選択肢を比較している顧客に対して、選定理由を明確にし、社内承認を得るための材料を提供することが目的です。
効果的なコンテンツ例としては以下があります。
- 導入事例: 同業種・同規模の企業の成功事例
- ROI計算シミュレーター: 導入効果を数値で可視化できるツール
- 稟議書サンプル: 社内承認を得るための書類テンプレート
- 機能比較表: 競合製品との違いを整理した資料
これらの意思決定支援ツールを提供することで、顧客の社内検討をスムーズに進められるよう支援します。
作って終わりにしない——運用設計と改善サイクル
カスタマージャーニーマップを作成して満足し、その後の施策設計やコンテンツ制作に活かせないまま放置してしまう——これはよくある失敗パターンです。マップは作って終わりではなく、継続的な検証と最適化が必要です。
カスタマージャーニー分析の重要性は市場でも認識されており、日本のカスタマージャーニー分析市場は2025年から2033年にかけてCAGR 14.92%で成長し、2033年までに30億420万米ドルに達するという予測もあります。また、BtoBマーケティング支援市場規模は2026年度予測で210億円(BtoCの152億円を上回る)とされており、データドリブンなアプローチへの投資が進んでいます。
【チェックリスト】BtoBカスタマージャーニー設計チェックリスト
- ターゲット顧客の業界・企業規模・役職を明確にしている
- 意思決定者・推進者・利用者など複数のペルソナを設計している
- 各ペルソナの課題と情報ニーズを言語化している
- 認知から導入後までのフェーズを定義している
- 各フェーズのタッチポイントを洗い出している
- 各フェーズで「誰に・何を・なぜ」を明確にしている
- フェーズ別のコンテンツを設計・制作している
- 認知・興味フェーズのコンテンツを充実させている
- 比較検討フェーズ向けの導入事例を用意している
- 意思決定フェーズ向けの稟議支援資料を用意している
- 各フェーズのKPIを設定している
- 定期的な効果測定の仕組みを構築している
- マーケティングと営業の連携体制を整備している
- 年に1回以上のマップ見直しを計画している
- 市場環境や顧客ニーズの変化をモニタリングしている
効果測定とPDCAサイクルの回し方
効果的なカスタマージャーニー運用には、各フェーズのKPI設定と定期的な見直しが欠かせません。
各フェーズで設定すべきKPIの例としては以下があります。
- 認知フェーズ: Webサイト訪問数、記事閲覧数、SNSリーチ数
- 興味フェーズ: ホワイトペーパーダウンロード数、セミナー申込数
- 比較検討フェーズ: 資料請求数、問い合わせ数
- 意思決定フェーズ: 商談数、見積依頼数
- 導入後フェーズ: 継続率、アップセル率
これらのKPIを定期的にモニタリングし、PDCAサイクルを回すことで、カスタマージャーニーの精度を継続的に高めていくことができます。
まとめ:カスタマージャーニーとコンテンツ設計を連動させて成果につなげる
本記事では、BtoBカスタマージャーニー設計の基本から実践的な運用方法までを解説しました。
BtoBの購買プロセスでは平均して6〜10人が意思決定に関与し、購買担当者の約57%が営業接触前に購買プロセスの大半を完了しているとされています(海外調査のため日本市場では異なる可能性あり)。この特性を踏まえると、カスタマージャーニーの各フェーズで適切なコンテンツを提供することが、商談化・受注への近道となります。
本記事のポイントを整理すると以下のとおりです。
- BtoBでは複数の意思決定者を考慮したペルソナ設計が必要
- カスタマージャーニーマップはAs-Is(現状)→To-Be(理想)の順で作成する
- 各フェーズで「誰に・何を・なぜ」を明確にしたコンテンツ設計が重要
- マップは作って終わりではなく、継続的な効果測定と改善が不可欠
本記事で紹介した「フェーズ別コンテンツ設計表」と「BtoBカスタマージャーニー設計チェックリスト」を活用し、自社のカスタマージャーニー設計に取り組んでみてください。
BtoBのカスタマージャーニー設計は、マップを作って終わりではなく、各フェーズで「誰に・何を・なぜ」を明確にしたコンテンツ設計と連動させることで、初めて商談化・受注につながる成果を生みます。
