業界レポートを作成しても活用されない問題
業界レポート作成の答えは明確で、説得力のある業界レポートを作成するには、テンプレートに沿って項目を埋めるだけでなく、ターゲット読者(誰に)と目的(何のために)を明確にした上で、意思決定を後押しする構成を設計することが重要です。
「業界レポートを作成したものの、社内承認が通らない」「せっかく作ったレポートが意思決定に活用されない」。BtoB企業のマーケティング担当者や事業企画担当者から、こうした悩みを聞くことは少なくありません。
多くの場合、その原因は情報を羅列しただけで「で、何が言いたいの?」と言われてしまうレポートになっていることにあります。項目を埋めることに注力するあまり、「誰がこのレポートを読んで、何を判断するのか」という視点が抜け落ちているのです。
この記事で分かること
- 業界レポートに記載すべき項目と構成の基本
- 読者と目的を意識したレポート設計のポイント
- データ収集の方法と信頼性を確保するための情報検証
- 社内承認を通すための実践的なチェックリスト
業界レポートとは何か|目的と活用シーン
業界レポートは、特定の業界や市場に関する情報を体系的にまとめた文書であり、社内の意思決定や商談、投資判断などに活用されます。
市場概況とは、市場規模や現状、主要プレイヤー、将来予測、成長シナリオ、リスク要因などを整理したレポートセクションを指します。業界レポートの中核となる部分です。
参考になる構成例として、日経業界分析レポートは約20ページにまとめられ、市場シェアや競争環境、市場規模予測、バリューチェーン、技術・法規制の動向、グローバル市場の影響などを網羅しています。また、矢野経済研究所の市場調査資料は、表紙・目次、調査概要、市場概況、セグメント別分析の構成で作成されています。
セグメント別分析とは、市場を製品別・地域別・顧客別などに細分化し、各セグメントの動向や特性を分析することです。読者が自社に関連する情報を見つけやすくなります。
BtoB企業における業界レポートの活用目的
BtoB企業における業界レポートの主な活用シーンは以下の通りです。
社内意思決定 新規事業の検討、投資判断、事業撤退の判断など、経営層への提案資料として活用されます。
商談資料 顧客への提案時に、市場環境や業界トレンドを説明する根拠資料として活用されます。
事業企画 中期経営計画の策定、マーケティング戦略の立案など、計画策定の基礎資料として活用されます。
レポートを作成する前に、「自分はどの目的で作成するのか」を明確にすることが、活用されるレポートへの第一歩です。
業界レポートに記載すべき項目と構成
業界レポートに記載すべき主な項目は、目次、調査目的、調査方法、調査対象、調査期間、調査項目、調査結果、考察・分析、送付資料の9つとされています。ただし、これらの項目を機械的に埋めるだけでは、読者に刺さるレポートにはなりません。
「レポートの項目や書き方だけを調べて作成し、誰がこのレポートを読んで何を判断するのかを曖昧にしたまま進めてしまう」という失敗パターンは非常に多く見られます。結果として、情報を羅列しただけで「で、何が言いたいの?」と言われてしまうのです。
5W2Hとは、Who、What、When、Where、Why、How、How muchの7つの観点で情報を整理するフレームワークです。レポートの構成設計にも活用できます。
【比較表】業界レポート構成項目比較表
| 項目 | 内容 | 重要度 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 目次 | レポート全体の構成を示す | 必須 | 読者が目的の情報にたどり着けるよう設計 |
| 調査目的 | このレポートで何を明らかにするか | 必須 | 読者の意思決定に直結する目的を明示 |
| 調査方法 | どのような手法でデータを収集したか | 必須 | 信頼性の担保として重要 |
| 調査対象 | どの市場・業界を対象としているか | 必須 | 範囲を明確にし、誤解を防ぐ |
| 調査期間 | いつ時点のデータか | 必須 | 情報の鮮度を示す |
| 調査項目 | 具体的に何を調べたか | 任意 | 詳細な調査報告の場合に記載 |
| 調査結果 | データ・事実の提示 | 必須 | 事実と考察を明確に分離 |
| 考察・分析 | 結果から導き出される解釈・提言 | 必須 | 意思決定を後押しする核心部分 |
| 送付資料 | 補足資料・参考文献 | 任意 | 詳細データや引用元を整理 |
読者を意識した構成設計のポイント
レポートをまとめる際は「読み手の存在」を意識し、対象読者に合わせた記載レベルを調整することが重要です。
経営層向けの場合は、エグゼクティブサマリーを冒頭に配置し、結論と提言を先に述べます。詳細データは後半に回し、意思決定に必要な情報を最初に提示します。
実務担当者向けの場合は、具体的なデータや方法論を詳しく記載し、再現性のある情報を提供します。
外部向け(商談資料) の場合は、自社の強みと市場機会の接点を明示し、提案の根拠となる情報を強調します。
データ収集の方法と情報源の選び方
業界レポートのデータ収集は、デスクリサーチを中心に行うのが一般的です。デスクリサーチとは、公開されている資料やデータを利用して情報収集を行う調査手法で、フィールドリサーチと対になる概念です。
デスクリサーチでは公開されている資料やデータを利用し、インターネット、業界レポート、公的統計、学術論文などの多様な情報源から知識を得ることができます。
主な情報源の例
- 政府・公的機関の統計データ(経済産業省、総務省統計局など)
- 業界団体のレポート・白書
- 調査会社の市場調査レポート
- 上場企業の有価証券報告書・決算資料
- 専門メディア・業界紙の記事
また、データ収集サービスを活用すると、リード獲得(業界ディレクトリやLinkedInから連絡先取得)、競合調査(価格や新商品の動向追跡)、市場調査(ニュースやSNSのトレンド収集)が自動化できます。ただし、ツールの活用においても、最終的な情報の検証は人の目で行うことが重要です。
なお、AIツールを活用した市場調査も普及しつつありますが、AIが生成した情報は必ずファクトチェックを行い、引用元を確認することが必須です。
信頼性を確保するための情報検証
業界レポートの信頼性を確保するためには、複数の信頼できる情報源から同じテーマについて検証することが重要です。
情報検証のポイント
- 一次情報(公的機関・調査会社)と二次情報(メディア記事)を区別する
- 複数の情報源でデータの整合性を確認する
- 情報の発信時期を確認し、古い情報に注意する
- 調査のサンプル数や調査方法を確認し、信頼性を評価する
事実(データ)と考察(分析)は明確に切り分けて記載することも、信頼性の高いレポートを作成するための基本です。
業界レポート作成の実践チェックリスト
業界レポートの作成は、目的設定→データ収集→構成設計→執筆→レビューのサイクルで進めます。以下のチェックリストを活用して、抜け漏れのないレポート作成を実現してください。
【チェックリスト】業界レポート作成チェックリスト
- レポートの読者(ターゲット)を明確に定義した
- レポートの目的(何を判断してもらうか)を明確にした
- 調査対象の業界・市場の範囲を定義した
- 調査期間を設定した
- 情報源のリストを作成した
- 一次情報(公的機関・調査会社)を確認した
- 複数の情報源でデータの整合性を検証した
- 情報の発信時期を確認した
- 事実(データ)と考察(分析)を明確に分離した
- 読者のレベルに合わせた記載内容になっている
- エグゼクティブサマリーを作成した(経営層向けの場合)
- グラフや表を活用して視覚的に整理した
- 結論・提言を明確に記載した
- 引用元・出典を明記した
- 第三者にレビューを依頼した
- 「で、何が言いたいの?」と言われない内容になっている
社内承認を通すためのレビューポイント
社内承認を通すためには、レポートが「意思決定を後押しする内容」になっているかをレビューすることが重要です。
レビューの観点
- 結論・提言が明確か(「何を」「どうすべきか」が分かるか)
- 結論を支えるデータ・根拠が十分か
- 読者の疑問に先回りして答えているか
- 情報量が適切か(多すぎず、少なすぎず)
- 専門用語が読者に理解できるレベルで使われているか
「で、何が言いたいの?」と言われないためには、考察・提言のセクションで「だから〇〇すべきである」「〇〇の判断を推奨する」といった結論を明示することが不可欠です。
まとめ:読者と目的を明確にした業界レポート設計
業界レポートの作成は、情報を集めて項目を埋めれば完成するものではありません。活用されるレポートを作成するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。
業界レポート作成の要点
- 読者の明確化: 誰がこのレポートを読むのかを定義する
- 目的の明確化: 何を判断してもらうためのレポートかを定める
- 構成設計: 読者と目的に合わせた記載レベルと構成を設計する
- データ収集: 複数の信頼できる情報源から検証を行う
- 考察・提言: 事実と分析を分離し、結論を明示する
この記事で紹介したチェックリストと構成項目比較表を活用し、まずは「このレポートの読者は誰か」「何を判断してもらうか」を明確にすることから始めてください。
説得力のある業界レポートを作成するには、テンプレートに沿って項目を埋めるだけでなく、ターゲット読者(誰に)と目的(何のために)を明確にした上で、意思決定を後押しする構成を設計することが重要です。この原則を守ることで、社内承認を通し、商談や事業判断に活用される業界レポートを作成できます。
